2月27日 職場への電話
「奥さんからよ」
出勤し、情報を整理し、本腰を据えて勤務に取り掛かろうとしたところで電話がかかってきました。
職場に電話があったのは2月27日のこと。2月末にスーザンは職場を辞めることになっていました。半分は能動的に。半分は強制的に。
辞めたきっかけは無断欠勤。2月の初旬、朝起きて、遅刻していることに絶望したスーザンはひどく自分を責め、慟哭し、そしてまた絶望し、これではもう働き続けることはできないと、職場からかかる電話なども無視し、会社を辞めることにしました。
この時点で変調は明らかでした。ひどい落ち込み。不安定な精神。外出することも減り、気力がなくなっているようでした。
なにより心配な点は睡眠障害があるところで、夜に寝れない。
そこで以前にかかった精神科を兼ねる内科医にかかり、相談し、睡眠薬を処方してもらったのが2月の中頃。10粒出してもらい、眠れない日に飲むことにしました。
「お薬全部飲んじゃったの」
スーザンは涙声でそう言いました。
「職場の人が来てね、大家さんに鍵借りてね、いきなり来たの」
無断欠勤をした直後にも同じことがありました。無断欠勤し、電話にも出ない。安否を心配するのは当然のことでしょう。職場には住所を伝えてあったわけで、その住所に職場の上司が来た。家の鍵が閉まっている。そこで隣の大家さんに事情を話し、緊急性が高いことを説明し、鍵を開けて家に入ったと。
死んでると思ったのかも知れません。それまで真面目に働いていた従業員が急に来なくなった。逆に考えると「何かあった」と思われる程度には真面目に勤務していたということではあります。
「前と同じように来たの。保険証取りに来たの。大家さんとこ行ったみたい。迷惑かけてごめんね」
スーザンは前も大家さんに迷惑をかけたことを詫びていました。そして大家さんに迷惑をかけたことで、私に迷惑がかかることも詫びていました。「大家さんに怒られるね、ごめんねと」
「気持ちがなんかいっぱいになって、残っていたお薬全部飲んじゃった」
私の記憶上、睡眠薬は6粒くらい残っているはずでした。元々私の出勤後に1粒飲んで寝るつもりだったようですが、パニックになって全部飲んでしまったようです。
医療的な知識はそんなにない私ですが、直感的にその危険性を理解しました。明らかに過剰服用で、危険だと。
信頼できる上司に妻が精神を病んでいること、睡眠薬を過剰服用したことを伝え、とりあえず帰宅することにしました。幸いにして自宅は職場から自転車で10分の距離。問題がなければ職場に戻ればいい。
タイムカードを「休憩入」で打刻。急ぎ自転車で帰宅することにしました。