2月27日 点滴そして帰宅
病院に着き、お医者さんにゆだねてしまえば、夫の出番などありません。待合室でただ待つのみ。待っている間に職場へ経過報告をし、このまま直帰することを伝えます。
5分……10分……15分……。雨の夜の病院は物静かで、時間だけがただ過ぎていきます。
しばらくすると看護師の方が自分を呼びに来ました。中に入ると、スーザンがベッドに寝かされています。目をつぶり、だいぶ落ち着いた表情になっています。我が妻ながら、その表情は天使のようで、妙な安心感を得ます。
「お薬の方は問題ないでしょう。今は点滴をしています。点滴が終わればお帰りいただいても問題ないと思います」
過剰に服用した睡眠薬は、睡眠薬としては強いものではなく、時間的にもうだいぶ抜けているとのこと。胃洗浄などは必要なく、とりあえず点滴などで水分をとることが大事であるという先生からのご説明でした。
「こういう場合、本人が一番ショックなので、ご主人が一緒にいてあげてください」
言われるまでもなく、スーザンに寄り添うことにします。
しばらくすると私の存在に気づいたのか、スーザンが目を覚まします。
「ここ、どこ?」
「病院だよ。もう大丈夫だよ」
「……そうなの?」
まだ多少意識が混濁しているようです。急に起き上がり、動こうと度々するのを押しとどめます。
いろいろ夢を見たのでしょう、紙とペンをねだります。スーザンが絵がうまく、絵を書くのが好きなのですが、このとき書いた絵はお世辞にもうまいとは言えないもので、ある種、奇妙なものでありました。薬の影響を感じずにはいられません。
点滴を二本。水分を補給。お医者さんの注意を受けて帰ることにします。
- 今日はゆっくり休み、水分は多めに取ること
- 薬は決められた以上の量は飲まないこと
- 今回のことは薬を処方したお医者さんに言うこと
この三つを噛んで含めるような優しい口調でスーザンに言って聞かせてくれます。さすが医療のプロ、厳しい口調で言うとショックであるという配慮なのですね。本当はもっと強い口調になってもおかしくないのに。
処置室を出ますが、さすがに足元がおぼつかない。よろよろとする。なんとかそれを支え、タクシーに乗り込みます。
「ごめんね……ごめんね……」
まだ意識は明瞭ではないものの、私に悪いことをしたという思いがあるようで、スーザンはしきりに詫びてきます。
一言詫び、目をつぶり。また目を開き、一言詫び。その繰り返し。
「気にしなくていいよ」「大丈夫だよ」と言うと安心するのでしょう、笑みを浮かべます。その表情がまた愛おしく、いろいろあった出来事のうちの悪い部分を忘れさせてくれるのでした。